高等植物分科会は、愛媛植物研究会会員の松山市および隣接する今治市・東温市に在住する会員から、「まつやまレッドデータブック2002」(以下、2002年版)を担当した5名と新たに2名を加えた7名で組織されている。
調査はまず旧松山市を対象としていた2002年版の掲載種に、文献調査によって、旧北条市および旧中島町で記録されている種のうち、愛媛県RDB種(愛媛県、2003)、環境省RDB種(環境省、2007)の掲載種および山本四郎(1978)で県内の分布量が[vr]種を追加し、それを調査対象種とした。
現地調査は、2005年の合併によって新たに加わった旧北条市および旧中島町を重点調査範囲としたが、旧松山市においても消長の激しい人里の溜め池や水田などの湿性植物を中心に経年的かつ網羅的な調査を実施した。さらに2002年版で現状不明(DD)とした種については生育確認にも努めた。
2009年度末と2010年度末に高等植物分科会にて暫定ランクを決定し、2011年12月にランクを決定し、2012年2月にランクの微調整を行い最終的に2012年版(改訂版)として333種を確定した。種数だけの比較では、絶滅(EX)~準絶滅危惧(NT)まではすべて増加しており、情報不足(DD)が減少している。ランクの区分けを以下の表に示す。
2002年 | 2012年 | 増減 | |
絶滅(EX)、野生絶滅(EW) | 30種 | 32種 | +2種 |
絶滅危惧ⅠA類(CR) | 30種 | 55種 | +25種 |
絶滅危惧ⅠB類(EN) | 44種 | 81種 | +37種 |
絶滅危惧Ⅱ類(VU) | 37種 | 46種 | +9種 |
準絶滅危惧(NT) | 5種 | 19種 | +14種 |
現状不明(DD) | 139種 | 100種 | ‐39種 |
合計 | 285種 | 333種 | +48種 |
ランクの変更 | 種数 |
新たに絶滅(EX)となった種 | 8種 |
絶滅(EX)、野生絶滅(EW)から下位に変更 | 6種 |
絶滅危険性が増加した種 | 75種 |
絶滅危険性が減少した種 | 36種 |
ランクの変更がない種 | 171種 |
新たに情報不足(DD)とした種 | 18種 |
情報不足(DD)のままの種 | 80種 |
新規にRDBに追加された種 | 51種 |
情報不足(DD)から変更された種 | 58種 |
今回のRDBで削除された種 | 3種 |
新たに絶滅(EX)とした種:8種
クモノスシダ、コタニワタリ、サンショウモ、コウホネ、タコノアシ、ヒナノカンザシ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサである。
新たに追加された種:51種
新たに追加された種の一部は合併による広域化により新たに追加された種であるが、旧松山市において溜め池・水路の改修など人為的影響によって減少した種や外来水草の繁茂による被圧で減少した種も多く含まれている。
絶滅(EX)から下位のランクに変更した種:6種
これは合併によって新たに加わった地域で自生地が確認された種あるいは自生の可能性があるとして情報不足(DD)に変更した種および旧松山市内で新たに自生が確認された種であり、ミズワラビ、ナガサキシダ、タチハコベ、イヌノフグリ、アサザ、ノハナショウブである。
上位のランクに変更した種(絶滅危険性が増加した種):75種
新たに絶滅とした8種を含めて75種についてランクを上位に変更した。このうち58種は2002年版では情報不足(DD)としたものであり、DD種のうち52種についてはその後の調査で自生が確認されたことから絶滅危険性を評価し、残りの5種については絶滅と判断した。
その他の主な上位ランクへの変更種はオグラノフサモ(EN→CR)、サワゼリ(EN→CR)、カワヂシャ(NT→VU)、ウスバヒョウタンボク(VU→EN)、セキショウモ(VU→EN)、ヒロハノイヌノヒゲ(EN→CR)、ニッポンイヌノヒゲ(VU→EN)、スズメノコビエ(VU→EN)、ナガミノオニシバ(NT→VU)、シオクグ(VU→EN)、イガクサ(EN→CR)、ホタルイ(VU→EN)、シンジュガヤ(EN→CR)、クモラン(VU→EN)である。
絶滅(EX)以外のランクから下位に変更した種(絶滅危険性が減少した種):33種
これらの多くは合併により高縄山など山岳と中島を始めとする島しょ部で新たに多くの生育地が確認されたことによるランクの変更である。絶滅危険性が下位に変更されても旧松山市内での危険性は継続しているものと考えられる。
新たに情報不足(DD)とした種:18種
2002年版で絶滅(EX)とし、今回、情報不足(DD)とした種はタチハコベとアサザの2種であり、2002年版では未掲載で今回、新たに情報不足(DD)とした種は18種である。これらの多くは溜め池など湿地環境に生育する植物で近年、生育確認地が消失して現状が不明となった種である。
情報不足(DD)種:100種
2002年版では情報不足(DD)種は139種であったが、今回の調査によって100種と種数が減少した。このうち80種については前回に引き続いての情報不足(DD)であった。これらの情報不足(DD)種の多くは、今後とも確認調査を継続したとしても現存を確認できる可能性が極めて低く、次回の改訂ではEXへ移行することも検討しなくてはならない。そうであれば次回改訂ではEX種が一挙に増加する事態も覚悟しなければならないだろう。
種の解説について
学名は、シダ植物については中池(1992)を、他の植物群は原則として米倉浩司・梶田忠(2003-)「BGPlants 和名-学名インデックス」(YList)を使用した。科の配列は環境省(1994)に従った。
(執筆者:松井 宏光)