第23回瀬戸内海俳句大会の審査結果をお知らせします
皆様からご応募いただいた瀬戸内海の美しい自然や暮らし、行事などを詠んだ俳句の中から、入賞句が決定しましたので、お知らせします。
1371句(小学生の部…227句 中学生・高校生の部…148句 一般の部…996句)
大賞
入賞句 |
入賞者 |
石を割る音のカーンと海炎ゆる |
溝渕 登志子 |
選評 |
「石を割る音」から想像されるのは、丸亀市の景勝地である心経山。2019年に日本遺産に認定されているが、現在は三軒ほどの石屋さんが残っているようである。丁場から切り出される花崗岩は青木石といわれる美しい石。作者は石を割る音をいつも耳の奥に聴き止めながら、長い歳月を過ごされてきたのではないだろうか。「カーン」という擬音語が、炎えるような海原に谺となって広ごってゆく。幻想的な真夏の一瞬を捉えて一気に詠いあげた秀句である。(福谷 俊子 選評) |
優秀賞(小学生の部)
入賞句 |
入賞者 |
名も知らぬ魚のむれと泳いだよ |
土井 瑛介 |
選評 |
どこの海でしょうか。透明な海の底にはいろいろな魚のむれが泳いでいますね。はじめて見た魚のむれは夢のなかにいるようなきれいな色だったのでしょう。魚の名を図鑑などで調べてみるのも楽しいですね。「名も知らぬ」という上五の軽い切れも、「泳いだよ」という「よ」の使い方も、とても上手です。きっといっぱい俳句を作っていて、いつの間にか身についたのでしょう。これからも楽しい俳句を作ってくださいね。優秀賞おめでとうございます。(福谷 俊子 選評) |
優秀賞(中学生・高校生の部)
入賞句 |
入賞者 |
冬の波岩を打っては高上がる |
蛇石 菜々 |
選評 |
俳句は瞬間を詠むものだと言われます。この句は経過を描いているように見えますが、瞬間、瞬間の連続が描かれているのです。冬の波が、まるで生き物のようにいきいきと表現されました。作者にとっておそらく思いがけない高さだったのでしょう。この句には自然のエネルギーに対する畏敬の念を感じます。実際に見たものをしっかりと写生し、素直に描くと作者の感動が伝わるものですね。(八木 健 選評) |
優秀賞(一般の部)
入賞句 |
入賞者 |
夏早朝この世あの世も海の風 |
大野 美代子 |
選評 |
海辺の風景であろう。夏の早朝に吹く少し涼しい海風を身に受け、あの世もこの世と同じように涼しい風が吹いてると感受した作者である。あの世にいるご先祖様も同じように涼んでおられることであろうと納得している様子がうかがえる。句の流れがリズミカルで、あまり重くないのもこの句の特徴。「あの世」などを扱う場合は、この句のように軽く書くと共感を得やすい。大いなる虚構であるが、十分に実感のある作品であった。(松本 勇二 選評) |
特別賞(トライアスロン賞)
入賞句 |
入賞者 |
筋肉に記すゼッケン秋暑し |
園田 志保 |
選評 |
トライアスロンでは、腕や足にマジックでゼッケン番号を書きます。「ボディナンバー」と言いますが、トライアスロンの象徴的なものの一つです。「皮膚」や「肌」に書いたのでは力強さが出ませんね。「筋肉」に書いたと詠んだことで、選手の体型や緊張感が伝わってきます。「暑し」には気温と会場の熱気が表現されています。(八木 健 選評) |
特選
入賞句 |
入賞者 |
中島で飛魚になる俺の夏 |
宮川 直子 |
選評 |
中島で開催のトライアスロンに参加する作者の意気込みが、飛魚になるという決意で語られています。そして、これが「俺の夏」だとして、これまでのトレーニングの全てを賭けるんだという思いが伝わってきます。俳句は句の中に作者が存在することが大切です。意欲的な作者の存在がしっかりと伝わってきます。(八木 健 選評) |
特選
入賞句 |
入賞者 |
大落暉瀬戸内海を傾ける |
合志 義文 |
選評 |
大きな夕日「大落暉」が、今まさに瀬戸内海に沈もうとしています。都会では見られないあまりにも見事な夕日に、これがこのまま瀬戸内海に沈むと海が傾いてしまうんじゃないかと思ったのです。瞬間に感じたことが句になりました。夕日の大きさと作者の立っている場所が伝わり、読者も大落暉を見ている気分にさせてくれます。(八木 健 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
ビーチバレーの足跡あまたいわし雲 |
武田 直 |
選評 |
試合が終わり選手も観客もいない浜辺には、あまたの足跡だけが残っています。作者は足跡を見ながら試合を思い出しています。いいゲームだったなあ。その余韻を楽しむ心地でふと空を見上げると、いわし雲が広がっています。いわし雲が、まるでビーチバレーの足跡にも見えてきます。取り合せた季語で愉快な句になりましたね。(八木 健 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
行き違ふフェリーに振りぬ夏帽子 |
山本 礼以子 |
選評 |
フェリーに乗ったことのある人なら、同じ体験をしたことがあるかもしれません。別々のフェリーなのに仲間意識というのか親近感が生まれて、声は届かなくてもジャスチャーでメッセージの交換。これから島めぐりだね。僕たちは行って来たんだよ。楽しかったよ。行ってらっしゃあい。瀬戸内海での穏やかで心温まるひとコマ。(八木 健 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
とびこみ台海の底へと旅に出る |
小立 穂乃華 |
選評 |
作者はとびこみ台の上に立ち、海をじっと見下ろしています。さあこれから海の中へ行くんだという意気込みが感じられます。とびこんで、しっかり沈んで海の底を探検してみよう。期待と、ちょっぴり怖い気持ちもあるでしょうか。作者の緊張感、集中している表情、わくわく感が読者に伝わってきます。(八木 健 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
秋の空夕日が海にダイビング |
桑山 凛央 |
選評 |
「釣瓶落し」という季語があります。この季語は、秋の夕日が沈む風景を客観的に描写したものです。「夕日が海にダイビング」の表現には、沈む速さ、太陽の勢いがよく出ています。また、太陽を擬人化したことで、とても個性的で面白い句になりました。擬人化は、対象を人間扱いすることではなく対象になり切ることです。(八木 健 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
瀬戸の海一跨ぎして虹立ちぬ |
近藤 節子 |
選評 |
瀬戸の海だけでも壮大ですが、その瀬戸の海をひとまたぎしているというのですから、実にスケールが大きいですね。虹の大きさ、見事さが表現されました。「一跨ぎ」「立つ」の言葉から、なんとなく人間らしさを感じ、ほのぼのとした気分になれます。感動したことを感じたままに素直に描いて楽しい句になりました。(八木 健 選評) |
特選
入賞句 |
入賞者 |
秋桜や父に会ふ日は海見る日 |
野崎 眞奈美 |
選評 |
父上は海の近くに住んでおられるようだ。作者もまた、その海の近くで育ったのであろう。父上と会う日はおのずと海を見る日であるという、きっぱりとした口調に力感が溢れていた。コスモスという導入から海へ、ぽーんと情景を飛ばす距離感に作者の感覚の冴えがうかがえる。どこか懐かしいのは、季語のコスモスのせいであろう。(松本 勇二 選評) |
特選
入賞句 |
入賞者 |
離岸流海月の家へ続く道 |
明照 彬吾 |
選評 |
湾岸流は、湾岸付近で局地的に沖に向って流れている潮流で、これに巻き込まれると、どんどん沖に流されるという。かなり危険な潮流だ。その湾岸流が、海月の家に続いていく道であると見立てる発想が大いに新鮮。「海月の家」が海中にあるんだと断定することで、句に切れ味が出た。海月は決して潮流に逆らわない。(松本 勇二 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
水軍の眉もて啜る心太 |
河村 正浩 |
選評 |
瀬戸内には水軍の歴史があちこちにあるようだ。かつて水軍が活躍した島の、海の家での一風景であろうか。「水軍の眉」という語に作者の感覚の冴えがうかがえる。顔のどの部分に仕事をさせるかであるが、作者は眉に焦点を当てて成功した。太くて凛々しい眉であったことであろう。(松本 勇二 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
今月はだいたい毎日アイスの日 |
富永 悠 |
選評 |
今年の夏はとてつもなく暑かった。毎日毎日35度を超える暑さでうんざりした。作者はそこを逆手に取り、毎日アイスの日だと、猛暑を明るく跳ね返している。明るく元気な句を作りましょう。などと呼び掛けているがまさに当を得ている。「だいたい」という大まかな言い方がこの句を一層明るくした。(松本 勇二 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
ジョウビタキ青信号で動き出す |
田中 湊太 |
選評 |
ジョウビタキは冬になると里にやって来る。雄はガラスやバックミラーに映った自分の姿を、ライバルと勘違いしてぶつかっていったりするのをたまに見かける。作者は信号待ちをしている時、美しいジョウビタキを見つけた。それが青信号に変わった瞬間いっしょに動き出したのである。一瞬を切り取ることに長けた作者である。(松本 勇二 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
白南風を抜き去るシックスパックかな |
三好 一彦 |
選評 |
シックスパックとは、腹回りに脂肪がついておらず、腹筋が発達して六つの隆起があるさまを表す語である。そういうシックスパックの持ち主が、白南風を抜き去っていったと書いている。トライアスロンの自転車の風景であろうか。本当は他の選手を抜き去ったのかもしれないが、「白南風」を抜き去って詩になった。(松本 勇二 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
ケセラセラ生きて傘寿や夏の海 |
廣木 信子 |
選評 |
ケセラセラは「なるようになるさ」という意味である。スペイン語であることを今回知った。未来に対しての不安を、「思い悩んでも仕方がない、なるようになる。」と言い聞かせながら傘寿を迎えた作者である。これからもそういう気持ちで生きていただきたい。季語「夏の海」が、作者をやさしく受け止めている。(松本 勇二 選評) |
特選
入賞句 |
入賞者 |
柘榴の実割れて火のいろ水軍史 |
好井 道子 |
選評 |
南北朝時代から戦国時代にかけて瀬戸内海で活躍した村上水軍がいた。「水軍史」というのは、 室町幕府や守護大名から海上の警護を命じられて、勢威をふるったと伝えられる史実を記した書籍であろう。たまたま真っ赤に割れた「柘榴の実」に触発された句であるが、「火の色」の詩語が当時の水軍の勢威をよく象徴している。(福谷 俊子 選評) |
特選
入賞句 |
入賞者 |
島影をうつす白露の燧灘 |
青木 治敬 |
選評 |
<燧灘>は瀬戸内海中央部に位置する海域の一つで、備讃諸島と三崎半島、芸予諸島と高縄半島に挟まれた灘である。亀老山から見下ろした景であろうか。夏の名残りの感じられる海面に珍しく、くっきりと映る島の影が感銘深い。「白露」という格調高い季語を固有名詞にかぶせて、巧みにひびきあっている一句である。(福谷 俊子 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
海炎ゆるデカルト、カント忘れけり |
藤本 としこ |
選評 |
いきなり「デカルト」「カント」といういかめしい名前を連ねた摩訶不思議な雰囲気をかもす句。お若いころの作者が、いささかの興味を抱かれた人物であったろうか。今、真夏の太陽に照らされて炎える大海原を眺めながら、かの哲学者のことなどどこかへ吹っ飛んでしまったよう。「忘れけり」の正直な詠嘆がとてもユニーク。(福谷 俊子 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
初凪へ一礼ののち石投ず |
山本 恭児 |
選評 |
元日の海が静かに凪ぎわたっているさまを「初凪」という。いつも眺めているいつもの海であるが、年の改まった厳粛な気持ちで一礼を捧げる若い作者の折目正しさがまぶしいほど。一転して「石投ず」の展開には、止むに止まれぬ若いエネルギーを感じる。思い切り回転をかけた水切り石が、巧く沖まで飛んですかっとした元日。(福谷 俊子 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
蝉時雨島を大きく揺らせをり |
篠原 みどり |
選評 |
「蝉しぐれ」は多くの蝉がいっせいに鳴いているさまを時雨に例えたもの。私の愛誦句に「大地いましづかに揺れよ油蝉 富澤赤黄男」の句がある。「島を大きく揺らせ」ということと、「大地いましづかに揺れよ」という発想の根っこは、時代を経ても変わらない。人の姿も殆んど見当たらない日盛りの島の景を捉えた大胆な表白。(福谷 俊子 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
月涼しかつて水軍馳せし海 |
渡部 美恵子 |
選評 |
昼間の暑さが衰えて、ほっと見上げる月には、思いがけない涼しさが感じられる。海原を照らす月光にも、白楽天の地面を照らす月光を霜に見立てた詩に近いものがあろう。そこは、かつて村上水軍の馳せた海。静けさにつつまれている作者が彷彿とし、彼方からあがる鬨の声が今にも聴こえてきそう。夜の海であればこその詩情。(福谷 俊子 選評) |
入選
入賞句 |
入賞者 |
働いて海風まとふ端居かな |
篠田 千恵美 |
選評 |
海で働く男衆の朝は早く、漁場を求めての作業はなかなかの重労働である。精いっぱい働いたあとの解放感は、この上ない至福の時間であろう。気の合う仲間と、ビールを酌み交わしながら将棋などのひと差しも、明日への英気を養ってくれる。「端居かな」という穏やかな下五の詠嘆まで、淀みのない調べが心地よい。(福谷 俊子 選評) |