第22回瀬戸内海俳句大会の審査結果をお知らせします
更新日:2024年3月6日
第22回瀬戸内海俳句大会(令和5年度)
皆様からご応募いただいた瀬戸内海の美しい自然や暮らし、行事などを詠んだ俳句の中から、入賞句が決定しましたので、お知らせします。
応募件数
804句(小学生の部…222句 中学生・高校生の部…121句 一般の部…461句)
審査員
- 八木 健
- 松本 勇二
- 福谷 俊子
大賞(一句)
入賞句 | 入賞者 |
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チヌ上がるまがねの背鰭カッと立て |
菅 宏史 |
選評 | |
俳句には、作者がその時その瞬間に感じたことが表現されます。この句には釣り上げたときの作者の興奮が描かれています。チヌは黒鯛の呼び名。海水に濡れた背鰭は鉄のように硬く黒々と光っています。立派な背鰭です。「カッと立て」はチヌが威嚇しているとも、最後の抵抗ともみえます。空中に吊り上げられた瞬間のチヌの命の力強さ、命の輝きがとらえられました。(八木 健 選評) |
優秀賞(三句)
入賞句 | 入賞者 |
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あきのあさうきわしぼめるあとしまつ |
浅野 恵玲奈 |
選評 | |
夏の間、海や川で楽しませてくれた「浮き輪」を片付ける風景ですね。浮き輪に空気を吹き込む時の楽しさとは逆の気持ちの寂しさが「しぼめる」によく出ています。そして、「あとしまつ」に、浮き輪への感謝が感じられます。「うきわさん、ありがとう。また来年もいっしょにあそんでくださいね」。もう今日からは浮き輪の出番はありません。夏に別れを告げ、季節は秋になったのです。(八木 健 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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主演女優めく月光の蒸汽船 |
山本 恭児 |
選評 | |
蒸気船が主演女優めいていると見立てた、作者の感性をまずは称えたい。その見立てを誘引したのはまぎれもなく月光であろう。月光がスポットライトの役目を果たしているからこその主演女優である。瀬戸内海を私が主役ですよと言いながら、胸を張って悠然と進む船が見えてくる。上五から中七へかけての句跨りも、特有のリズム感を湛えていて好もしい。俳句の一つの特徴である、映像の再構築を見事に成し得た一句である。(松本 勇二 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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魚匂ふ艫より見上ぐ雲の峰 |
山本 幸子 |
選評 | |
一読、情景が鮮明に見えてくる作品です。一日の漁を終えたあと、ほっと寛ぐ場所が、いつもの艫なのでしょうか。立ち上がる雲の峰の白さと、青い海とのコントラストが美しく力強い景です。暑さを吹きとばすような風に悠々と吹かれながら、作者の生きるエネルギーが「魚匂ふ」の外連味のない詩語から伝わってきます。(福谷 俊子 選評) |
八木健賞(五句)
入賞句 | 入賞者 |
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晩夏光夢はさまざまシーガラス | 金並 れい子 |
選評 | |
シーガラスは、ビーチグラスとも呼ばれ、海岸や湖の湖畔に打ち寄せられたガラス片のことです。角がとれて丸みをおび、表面はこすれて曇りガラスのような風合いになっています。色とりどりのシーガラスはアート作品の材料として使われたりもします。捨てられたガラスにも第二の人生が待っているのです。(八木 健 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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遠ざかる島へ振る振る夏帽子 |
能田 多佳子 |
選評 | |
島から見れば船が遠ざかっているのですが、島が遠ざかるということは、作者は船に乗っているのです。もう声が届かないほど船は離れてしまいました。それでもかろうじて手を振る島の人達の姿が確認できます。まもなく、その小さな姿も見えなくなりそうです。「また来るからねー」。帽子をとって懸命に振ります。(八木 健 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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引き波を追ふ子の一歩夏近し |
吉田 紗菜 |
選評 | |
波打ち際で幼い子どもが遊んでいます。足どりはまだおぼつかないけれど、砂によろけることもなく波を追いかけて一歩を踏み出しました。小さな足ではありますが、親にとっては嬉しい大きな一歩です。これから夏になり、ぐんぐんと成長していくのが楽しみですね。我が子を見つめる親の優しい眼差しが感じられます。(八木 健 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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らっかせい日光浴をのびのびと | 宇川 誠剛 |
選評 | |
落花生が天日干しされていたのですね。町の中では決して見られない貴重な風景です。落花生は地下茎に実をつけますが、収穫してそのままにしておくとカビが生えるので乾燥させるのです。このごろはお米も機械で乾燥させますが、やはりお日様に当ててゆっくり乾かす方が、落花生ものんびりできて気分がいいでしょうね。(八木 健 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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大口を開けるフェリーや秋日燦 | 山本 恭児 |
選評 | |
車を乗せることのできるフェリーは、船の乗降口が大きく開きますね。それをフェリーの口と見立てて愉快な句になりました。車どころか、秋の太陽さえもひとのみにできそうです。秋の日の海の穏やかさと島に流れるゆるやかな時間が伝わってきます。口を開けたのは、フェリーのあくびだったのかもしれません。(八木 健 選評) |
松本勇二賞(五句)
入賞句 | 入賞者 |
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秋の浜走り使ひの七十歳 |
大野 兼司 |
選評 | |
秋の浜辺を走り使いで動き回っているのが七十歳であるという着眼に、まずは感服した。それにより、ユーモアあふれる作品となった。浜の集落も高齢化で、後輩はまだまだできそうもない。しかし年長の人には逆らえない。作者の当惑顔が浮かぶ。高齢化社会の現状を見事に浮かび上がらせたが、ちょっとさみしい一句でもある。(松本 勇二 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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花ミモザ潮の匂いの母子手帳 |
高橋 紋 |
選評 | |
母子手帳は、かつての子育て時代をあれこれ思い返している状態と読んだ。現在子育て真っ最中なのかもしれないが、海の近くで長く生活しているからこそ、「潮の匂い」がするのではなかろうか。この「潮の匂い」が大いに風土性を湛えさせた。花ミモザのあざやか黄色が、作者とその来し方をやさしく包み込んでいる。(松本 勇二 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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沙魚にげて夕日だけがある手のひら |
飯本 真矢 |
選評 | |
掴んでいたハゼを逃がしてしまった。その手のひらに残っているのは、魚特有のぬめりや匂いなのであろうが、作者は「夕日だけがある」と捉えた。この詩的感性を称えたい。俳句には詩が必要だ。詩がないと日記のようになってしまう。地味な風貌のハゼという魚を取り上げ、夕日だけが印象に残るという構成も、また巧みである。(松本 勇二 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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おれんちからおおまた三歩で夏の海 | 福羅 奏 |
選評 | |
住んでいる家から、大股で三歩行くと、そこには夏の海が待っているのである。この素晴らしく屈託のない書きぶりに圧倒された。読む人にエネルギーを与える句である。こういう句をずっと書いて行きたいものである。作者のふだんから明るく元気な様子が浮かんできてうれしい。「おれんちから」がとてもいい。(松本 勇二 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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島渡船寒夕焼に還りけり | 西野 周次 |
選評 | |
俳句はそのまま書いては面白くない。虚構を大いに使うべしと思っている。しかし、その虚構に実感や存在感がなければだめである。この句はその虚構がさく裂した。島の渡船が還るところは船着き場なのであろうが、作者は「寒夕焼」であると思い至ったのである。この閃きを称えたい。それにより読者が遥かな気持ちになる。(松本 勇二 選評) |
福谷俊子賞(五句)
入賞句 | 入賞者 |
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着岸のロープを繋ぐ日焼の手 |
鈴鹿 洋子 |
選評 | |
入港してきた船を、ロープを使って岸壁のビットに繋ぎ止めることを着岸といいます。海辺に暮らす人には見慣れた風景かもしれませんが、「日焼の手」をクローズアップすることによって、実直に働く人物像まで想像させてくれるところが巧みです。安堵する一瞬の景でもありますね。(福谷 俊子 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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甲板の浮輪にわかに発光す |
山本 恭児 |
選評 | |
透明な浮輪にきらきら輝くスパンコールを入れたものなど、海やプールでフロートとして使われる遊び心いっぱいのものがあるようですが、この作品は甲板に置かれた浮輪に焦点を絞った眼前直覚の句です。「にわかに発光す」の緊密な詩語と、文語助動詞「す」の効用が見事です。(福谷 俊子 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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大潮の渚へ急ぐ蟹の群れ |
武井 日出子 |
選評 | |
月の引力が最も強い満月の大潮の日、蟹は浅瀬の流れを利用して、素早く脱皮するために集まってくるそうです。よどみのない平明な表現の作品ですが、脱皮しきれず死んでしまったり、魚に食べられてしまったりと、この先に展開される自然界の厳しさを憂う詩心も内包されています。(福谷 俊子 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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潮の香のほのと夏シャツの先生 | 久保田 凡 |
選評 | |
まだお若い海辺の先生でしょうか。授業参観や、進路などについて話し合う三者面談などの場景が想像できます。少し緊張しながらも、潮の香の匂うような先生に親近感を覚えてほっとされたのでしょう。破調ながらリズムをくずさない詩語の推敲が巧みです。(福谷 俊子 選評) |
入賞句 | 入賞者 |
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流木に海豚のオブジェ秋落暉 | 山西 哲子 |
選評 | |
海や川に流れてきた流木を拾って、独創的なオブジェを作ることのできる趣味は、楽しく生きがいのあるものです。流木を詠んだ句は沢山ありますが、独特のフォルムへの憧れから作られた海豚のオブジェであればこそ、束の間の秋落暉のはなやかさが、極上の詩情を増幅します。(福谷 俊子 選評) |
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