第21回瀬戸内海俳句大会の審査結果をお知らせします

更新日:2023年4月1日

第21回瀬戸内海俳句大会(令和4年度)

 皆様からご応募いただいた瀬戸内海の美しい自然や暮らし、行事などを詠んだ俳句の中から、入賞句が決定しましたので、お知らせします。

応募件数

1839句(小学生の部…300句 中学生・高校生の部…364句 一般の部…1175句) 

審査員

  • 八木 健
  • 夏井 いつき
  • 田島 明志

大賞(一句)

大賞
入賞句 入賞者

魚島やふくれてちぢむ鳥の群れ

上田 望
選評

 「魚島」は瀬戸内海を象徴する春の自然現象で、鯛や鰆の群れがまるで島のようになった様子を言います。魚の群は目に見えません。この句は、それを目当てに集まった鳥の群れの様子によってそれを写生したのです。その描写が実に活き活きとしてしかも躍動感があります。「ふくれてちぢむ」という具体的な映像化によって、海面下の見えない鯛の群れをリアルに描き出しました。瀬戸内海俳句大会にふさわしい佳句であると思います。(田島明志 選評)


優秀賞(三句)

優秀賞(小学生の部)
入賞句 入賞者

あさつった魚のみそしる夏休み

木村 晴生

選評
 夏休みならではの、朝釣りの光景が思い浮かぶ句です。涼しい朝風や夏の青空、盛り上がる白い雲。釣り竿(釣り糸)を持って、どきどきしながら待つ時間と、魚がかかった時の手ごたえ。そうやって自分で釣りあげた魚を、みそしるで味わっているのです。夏休みの絵日記のような楽しい内容が、十七音からあふれ出していて、みそしるのおいしさが読み手にも伝わってきます。(夏井いつき 選評)
優秀賞(中学生・高校生の部)
入賞句 入賞者

冬ざれや二重螺旋のやうに波

田邊 広大
選評

 春ののどかさや秋のおだやかさ、夏の躍動感とも違った冬ざれの海辺で、打ち寄せる波の動きを注意深く観察していたのでしょう。「二重螺旋」とは、遺伝子構造(DNA)で知られる、二つの螺旋が組み合わさってできる形のこと。二つの波が整然とぶつかり合い、くるくると回る姿を、「二重螺旋のやうに波」と比喩しています。生れては消えてゆく波の動きにも、冬ざれの寂しさを感じているのかもしれません。(夏井いつき 選評)

優秀賞(一般の部)
入賞句 入賞者

しまなみに銀輪銀輪風光る

近江 菫花
選評

 しまなみ海道は、日本初の海峡を横断する自転車道で、全長七十キロにおよびます。「天空の回廊」と呼ばれて、サイクリストの聖地にもなっていますね。島々の点在する瀬戸内海を舞台に自転車が駆け抜けて行く風景が描かれました。銀輪銀輪と重ねることで複数の自転車を表現したところが巧みです。回転する銀輪に季語の「風光る」がうまく絡んで、眩しいほどの躍動感があります。実に気持ちの良い一句です。(八木健 選評)

審査員特別賞

八木健賞(特選 三句 ・ 入選 十二句)

特選
入賞句 入賞者
いわし雲じわりじわりと空動かす 村上 峻矢
選評
 見上げる空に広がるいわし雲は、動いていないように見えて少しずつたしかに動いています。いわし雲は群れてゆっくり流れているのだけれど、作者は空も一緒に動いているように感じたのですね。しかも、よく見ると、その空はいわし雲がひっぱっているのです。空は動かないという固定概念を打ち破った感性の力が素晴らしいです。「じわりじわりと」に、雲の動く実際の速度がよく再現され、作者の実感もとても良く出ています。(八木 健 選評)

特選
入賞句 入賞者

段畑の風の不揃い黒揚羽

丹羽 梓
選評
 整然ときれいに積み上げられた石垣の段畑は、美しい造形美をもち芸術的でさえあります。しかし、そこに吹く風は、どんなにまっすぐに吹いても、段差があるために「不揃い」になるのです。その複雑な風の動きを黒揚羽はゆうゆうと捉えて、自在に飛んでみせます。一匹の蝶の登場で、島の段畑の静の風景を動に転換したところが巧みですね。石組みの硬さに風と蝶の描く曲線の柔らかさの対比もあり、計算しつくされた一句です。(八木 健 選評)

特選
入賞句 入賞者

夏帽子押さえて覗く橋梁下

菅 舞子
選評
 行動を具体的に描くことで、心情を表現することができます。よくある何気ない仕種ですが、橋の高さも伝わってきますね。下から吹きあげる風に夏帽子を飛ばされそうになったのでしょう。こんなにも高い所にいるのだという満足感で橋の下を覗いているのでしょう。しかし、こわごわ覗いているに違いありません。帽子をしっかり押さえつつ瀬戸内海の潮の流れを見下ろして、夏の潮風を全身に感じながら感動しているのです。(八木 健 選評)

入選
入賞句 入賞者
水軍の水先案内飛魚がとぶ キクちゃん

島の猫巡査にじゃれる日永かな

吉沢 道夫

とび魚や水平線を切りさいて

村上 峻矢

秋の空夕日がとぼとぼ帰ってた

小立 穂乃華

竿すべて蛸を干したり島漁港

ヒロくん

手仕事や牡蠣小屋に鳴る古ラジオ

マイちゃん

台風や瀬戸内海を荒立てる

竿尾 翼

椿落ちまた一つ増え無人島

泊雲

葉月潮窓辺から混むレストラン

キクちゃん

春潮や村一軒の何でも屋

キクちゃん

冬凪に瀬戸の島々端坐せし

楽花生

一周は半刻の島蝉時雨

しまのなまえ

夏井いつき賞(特選 三句 ・ 入選 十二句)

特選
入賞句 入賞者

夏潮にシャツ貼りつけて艀の子

菅 舞子
選評
 「艀」とは、陸と本船との間を往復して貨物や旅客などを運ぶ小船のことです。艀で働く親を手伝う、子どもの夏休みでしょう。重く粘るような潮風や強い陽射しの中、夏潮の飛沫によってシャツが張り付いているのですが、それを「シャツ貼りつけて」といったことで、子どもの真剣さが伝わってきました。明るさだけでない季語「夏潮」の一面が見えてきます。(夏井 いつき 選評)

特選
入賞句 入賞者

澄んでゐる夜の母港や秋深む

田邊 広大
選評
 「母港」という二文字によって、船の本拠地となる港に帰ってきた船旅の郷愁が生まれました。船から降り立った途端、夜の大気、町の灯などの港町全体が、澄み切った秋気に包まれていると感じたのでしょう。そして下五の季語「秋深む」によって、澄んだ空気に一気に肌寒さが加わります。秋の終わりを心で感じる季語が、もの淋しさを増幅させるようです。(夏井 いつき 選評)

特選
入賞句 入賞者

長き夜の巻き貝ゆるむ島時間

杉野 祐子
選評
 「島時間」と限定することで、島の「巻き貝」たちは、秋の夜を長く感じながらゆるんで過ごしているのではないか、と妙に納得させられた句でした。タニシやサザエのような小さな巻貝から、大きな巻き貝まで、ぐにゃりと身を伸ばし、貝殻も巻きをゆるめてリラックスしているような空想がふくらみました。「長き夜」という季語が、睡りを想像させるせいかもしれません。(夏井 いつき 選評)

入選
入賞句 入賞者

たこくらげしくしくおよぐなつのうみ

村上 秋悟

じいちゃんがおしえてくれたくらげのもちかた

赤瀬 花

スナガニがすあなに夕日をとじこめる

村上 峻矢

今朝の冬ハッチを閉じる潜水艦

田邊 広大

寒潮やトタン剥がれた道具小屋

星川 優希

タラップの音のみ高き日永かな

菅野 秀

段畑の風の不揃い黒揚羽

丹羽 梓

選果場正月飾りに一礼す

ほのぼのオムライス

猫のいる島に立ち寄る梅雨の星

もふもふ

春時雨手垢のついた潮見表

ほのぼのオムライス

どんぐりの旅の始めの石畳

木幡 忠文

手開きの鰯の骨のすずやかさ

誉茂子

田島明志賞(特選 三句 ・ 入選 十二句)

特選
入賞句 入賞者

流木の木馬よ色なき風のなか

藤本 かず美
選評
 瀬戸の島々には様々な流木が打ち寄せます。中には木馬のような形のものもあります。うら寂しい秋風の吹く浜辺で、この木馬を見つけて感動した作者の心には、詩人として豊かな感性を感じ共感を覚えます。一般的には迷惑な存在である流木をメルヘンチックに捉えつつ、オブジェとして作品化する、その逞しい詩精神に感心しました。ふと、「トロイの木馬」が脳裡を過りました。(田島 明志 選評)

特選
入賞句 入賞者

スナガニがすあなに夕日をとじこめる

村上 峻矢
選評
 浜の砂地に巣穴を作って、すぐに穴に逃げ込むスナガニ。夏を活動期とすることから夏の季語になっています。そのスナガニが夕日の中、巣穴に逃げ込みました。夕日に染まった体のまま逃げ込んだのです。そのまましばらく出てきません。普通の人ならただそれだけです。しかし作者は、それをカニが夕日を自分の巣穴に閉じ込めた、と感じたのです。雄大な瀬戸内海での小さな出来事ですが、作者の心は宇宙観に溢れているのでしょう。(田島 明志 選評)

特選
入賞句 入賞者

のし台の筵百枚いりこ干す

井上 きうい
選評
 この「いりこ」は「炒った海鼠」ではなく「小イワシ」、つまり煮干しのようなものでしょう。それが浜辺ののし台の筵に干し並べられています。「百枚」でその広さが想像できます。誰も居らず秋の陽が燦々と降り注いでいるだけ…。素朴さ、静かさ、そしてのんびりさ、そこには海と共に暮らす人々の様々な抽象概念がさり気なく詰まっているようです。これこそ瀬戸内海の暮しの原点、と大いに共感を覚えました。(田島 明志 選評)

入選
入賞句 入賞者

段畑の風の不揃い黒揚羽

丹羽 梓

真向こうは驟雨に煙る瀬戸大橋

土生 洋子

シーグラスの角滑らかに夏終わる

花紋

烏賊の目にシアンを宿す瀬戸の海

山本 恭児

しまなみの雲の百態天高し

坂口 美恵子

自転車に巻き込む瀬戸の風光る

桜小町

シャボン玉瀬戸の島々逆さにす

天満 優麻

どの島の午笛ぞ瀬戸の冬霞

キクちゃん

長き夜の巻き貝ゆるむ島時間

杉野 祐子

更に夜は繁く霧笛の響き合ふ

斎藤 詳次

舟でしか行けぬ城跡鳥渡る

翡翠葛

秋の空夕日がとぼとぼ帰ってた

小立 穂乃華

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