近年、地球温暖化に伴う急激な気象変化、外来種の拡散、人間の活動エリアの拡大等がすすむなか、人と自然の共生を目指して2008年環境省により「生物多様性基本法」が制定され、それを具現化すべく「生物多様性国家戦略2010」が策定されました。
松山市のレッドデータブックは2002年に初版が出版され、各方面で活用されてきました。その後10年の間に野生動植物に関する多くのデータが蓄積され、評価の再検討の必要性や市町合併もあって初版が見直されることになり、松山市から委託を受けた「まつやま自然環境調査会」(会員52名、協力者61名)が、3年前から文献・標本など蓄積された資料の解析や現地調査を実施してきました。対象とした生物群は哺乳類、鳥類、爬虫類・両生類、淡水魚類、昆虫類、クモガタ類・多足類、海岸動物、貝類・淡水産甲殻類、高等植物、高等菌類の10分類群を対象としました。
レッドリスト種の選定と評価を見直した結果、レッドリスト種は732種となり、10年前と比べ182種も増加しました。今回のデータを前回のそれと単純に比較することはできませんが、レッドリスト種が増えた要因としては、市町合併により高縄山を含む山地や忽那諸島などが加えられ地域を広げたこと、1960年代からの高度経済成長期の環境改変による影響が今も残っていること、放棄された植林地や農地、外来種の拡散、地球温暖化の影響などが考えられます。
2010年、名古屋市においてCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開かれ、生物多様性の保全や持続可能な利用等について審議されました。自然との共生のためには、人間活動による自然環境への負荷を小さくすることや、破壊された環境を修復して生物多様性の再生を図ることが喫緊の課題となっています。
市民、事業者、行政にとって総合的な自然環境保全のための基礎資料として、本書が広く活用されることにより、松山市の生物多様性に満ちた自然環境が次世代に引き継がれることを願います。また、未来を担う子どもたちの自然に対する理解を深めてもらうため、小中学校の教材としていただけたらと願っています。
本書の作成に当たり、愛蝶会、愛媛きのこ観察会、愛媛県総合科学博物館、愛媛県立とべ動物園、愛媛昆虫類調査研究機構、愛媛植物研究会、面河山岳博物館、日本昆虫分類学会、日本野鳥の会愛媛、南日本自然史博物館(以上、五十音順)、その他多くの人々から長年にわたる貴重なデータの提供などのご協力をいただきました。ここに深い感謝の意を表します。
まつやま自然環境調査会 会長 石 川 和 男