レッドデータブックについて

はじめに

 近年、地球温暖化に伴う急激な気象変化、外来種の拡散、人間の活動エリアの拡大等がすすむなか、人と自然の共生を目指して2008年環境省により「生物多様性基本法」が制定され、それを具現化すべく「生物多様性国家戦略2010」が策定されました。
 松山市のレッドデータブックは2002年に初版が出版され、各方面で活用されてきました。その後10年の間に野生動植物に関する多くのデータが蓄積され、評価の再検討の必要性や市町合併もあって初版が見直されることになり、松山市から委託を受けた「まつやま自然環境調査会」(会員52名、協力者61名)が、3年前から文献・標本など蓄積された資料の解析や現地調査を実施してきました。対象とした生物群は哺乳類、鳥類、爬虫類・両生類、淡水魚類、昆虫類、クモガタ類・多足類、海岸動物、貝類・淡水産甲殻類、高等植物、高等菌類の10分類群を対象としました。
 レッドリスト種の選定と評価を見直した結果、レッドリスト種は732種となり、10年前と比べ182種も増加しました。今回のデータを前回のそれと単純に比較することはできませんが、レッドリスト種が増えた要因としては、市町合併により高縄山を含む山地や忽那諸島などが加えられ地域を広げたこと、1960年代からの高度経済成長期の環境改変による影響が今も残っていること、放棄された植林地や農地、外来種の拡散、地球温暖化の影響などが考えられます。
 2010年、名古屋市においてCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開かれ、生物多様性の保全や持続可能な利用等について審議されました。自然との共生のためには、人間活動による自然環境への負荷を小さくすることや、破壊された環境を修復して生物多様性の再生を図ることが喫緊の課題となっています。
 市民、事業者、行政にとって総合的な自然環境保全のための基礎資料として、本書が広く活用されることにより、松山市の生物多様性に満ちた自然環境が次世代に引き継がれることを願います。また、未来を担う子どもたちの自然に対する理解を深めてもらうため、小中学校の教材としていただけたらと願っています。
 本書の作成に当たり、愛蝶会、愛媛きのこ観察会、愛媛県総合科学博物館、愛媛県立とべ動物園、愛媛昆虫類調査研究機構、愛媛植物研究会、面河山岳博物館、日本昆虫分類学会、日本野鳥の会愛媛、南日本自然史博物館(以上、五十音順)、その他多くの人々から長年にわたる貴重なデータの提供などのご協力をいただきました。ここに深い感謝の意を表します。

まつやま自然環境調査会 会長 石 川 和 男

1. 松山市の自然環境

 2005年、松山市は北条市と温泉郡中島町の合併により、中島(本島)、津和地島、怒和島、興居島など有人島9島を含む30以上の島々を擁する地域を広げ、市の面積は約1.5倍となった。
 北から西南西にかけては瀬戸内海に面し、北部と東部は明神ヶ森(標高1216.9m)、福見山(1001.3m)、高縄山(986.0m)などの高縄半島の山々、南部は四国山地に接している。松山平野は重信川と支流の石手川、小野川などによって形成され、立岩川、河野川、高山川などの流れる北条平野とは海岸まで張り出した丘陵地によって分断されている。
 また松山平野は、四国を東西に走る中央構造線の北側に位置し、基盤地質は主に花崗岩類・和泉層群により構成されるが、その他にも多くの地層や岩石が分布している。城山(勝山、標高131.1m)の北半分は花崗岩、南側は礫岩・砂岩となっている。約1500万年前には火山活動があり、興居島の伊予小富士(282.0m)、祝谷の御幸寺山(164.6m)や太山寺の経ヶ森(171.8m)などにその痕跡が見られる。
 気候は、典型的な瀬戸内海型であり、冬季と夏季の気温差は20 ℃ほどあるものの年平均気温は16.1℃と比較的温暖である。年間平均降水量は1,303.1㎜と少なく、背後に四国山地を擁するため、台風の影響も少ない。年間降水量の50%以上が梅雨と台風によるため、水は不足気味で吉藤池、俵原池など679ヶ所にため池が造られている。
 面積(42,905ha)の約44%は森林(約18,900ha)で、その内、人工林が48.9%を占めている。耕地は4,517haで、柑橘を主とする果樹園地(2,710ha)と田(1,639ha)などからなる。森林は標高約1000m以下においてはシイ・カシを主とする照葉樹林やコナラ・アベマキを主とする夏緑広葉樹およびアカマツ二次林からなり、標高1000m以上ではブナ、ミズナラを主とする夏緑広葉樹林となっている。しかし、森林の多くは二次林であり、自然林はほとんど見られない。
 クロマツ林やアカマツ林は1970年代からマツノマダラカミキリが媒介するマツノザイセンチュウにより松枯れが進み、アラカシやコナラなどの広葉樹に移行しつつある。
海岸はコンクリートの防護壁をもつ人工海岸となっているところが多く見られるが、一部に砂浜、岩礁が残っている。
 松山平野を流れる重信川や石手川は河床の浸透性が高く、表流水は極めて少量で伏流水となっており、流域に湧水の見られることが特筆される。また、市街地を流れる石手川はグリーンコリドー(緑の回廊)としての役割を果たすとともに、河畔のムクノキやエノキにできたうろ(洞)には、青葉の頃、東南アジア方面から飛来するアオバズクの繁殖を見ることもできる。市街地に位置し松山城をもつ城山は自然植生がよく保存され多様な動植物が生息生育する貴重な環境である。
 松山市の多様で豊かな自然のもとでは現在8,758種の野生生物の生息生育が確認されている。しかし、レッドデータブック掲載種が732種もあることから、早急な保全対策が望まれる。

2. 生物多様性の保全とレッドデータブック

1)  生物多様性保全の背景

 生物多様性は人類存続の基盤となっているが、20世紀後半から、大量生産・広域流通・大量廃棄型の社会となり、地球規模で人間活動による自然環境の破壊が顕在化してきたため、1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)において、「生物の多様性に関する条約」が採択された。わが国は翌年に加盟した条約に基づき1995年に「生物多様性国家戦略」を策定し、その後、2002年の「新・生物多様性国家戦略」では、 基本理念として ①人間が生存する環境基盤を整える ②人間生活の安全性を長期的、効率的に保証する ③人間にとって有用な価値の源泉となる ④豊かな文化の根源となる、を掲げた。また、生物多様性の危機として ①人間活動や開発による危機 ②里地里山など人間活動の縮小による危機 ③外来生物による危機を挙げ、残された自然の保全に加えて自然再生と持続可能な利用、長期的モニタリング調査として「モニタリングサイト1000」の設定、外来種対策、国際協力、市民参加・環境学習など社会的アプローチの推進を図った。
 2007年の「第三次生物多様性国家戦略」は戦略と行動計画の2部で構成され、基本的視点として ①科学的認識と予防的順応的態度 ②地域重視と広域的な認識 ③連携と共同 ④社会経済的な仕組みの考慮 ⑤統合的な考え方と長期的な視点が示され、4つの基本戦略として ①生物多様性を社会に浸透させる ②地域における人と自然の関係を再構築する ③森・里・川・海のつながりを確保する ④地球規模の視野を持って行動する、が提示された。行動計画では実施省庁を明記して約660の具体的施策と34の数値目標を設定した。また、生物多様性の危機として、地球温暖化による危機が追加された。
 2008年6月、「生物多様性基本法」が公布施行され、生物多様性国家戦略が法的に位置付けられた。「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」では特定の種しか対象とされなかったが、本法は野生生物を広くカバーするもので、理念法として他の法律に影響を与えるものである。その他、①事業の計画立案段階から環境影響評価を実施する(戦略的環境アセスメント)②野生生物が生態系、生活環境又は農林水産業に係る被害をおよぼすおそれのある場合は個体数の管理等を行う ③生物多様性地域戦略の策定に努める ④政策形成に民意を反映すること、などが特筆される。
 2010年3月、「生物多様性国家戦略2010」が策定され、「生物多様性基本法」および過去の戦略が具現化され、中長期目標(2050年)と短期目標(2020年)、わが国の生物多様性総合評価などが盛り込まれた。
 2010年10月、名古屋市において生物多様性条約第10回締約国会議(COP10 Conference of the Parties)が「いのち(自然と)の共生を、未来へ Life in Harmony, into the Future」をスローガンに開催された。
 そこでは、生物多様性の保全、持続可能な利用、遺伝資源利用の利益の公平な配分等について審議され、新戦略計画が採択された。また、日本は世界に向け、伝統的知識と近代科学の融合による自然共生社会の実現を目指した「SATOYAMA イニシアティブ」を提案した。さらに、世界的に生物多様性の損失に歯止めがかからない現状を踏まえ、国連は2011年から2020年を「国連生物多様性の10年」と定め、活動を開始した。

2) レッドデータブック

 レッドデータブックとは、絶滅のおそれのある野生動植物を選定して、その生息生育の現状等をまとめた報告書のことであり、減少の原因を解明し種の保護と生物多様性の保全を図っていく上で重要な役割を担ったものである。国際自然保護連合(IUCN)は、1966年に哺乳類と鳥類について世界的な規模で絶滅のおそれのある種を選定し解説した報告書を世界で初めて刊行した。その後順次改訂されワシントン条約はじめ各国の自然保護施策策定に活用されている。
 わが国初のレッドデータブックは、1989年に(財)日本自然保護協会と(財)世界自然保護基金日本委員会による『我が国における保護上重要な植物種の現状』であった。1991年には環境庁により『日本の絶滅のおそれのある野生生物』として脊椎動物編と無脊椎動物編が刊行され、その後、分類群ごとに取りまとめられた。しかし、微妙なバランスを保持しつつ遷移している生態系は人間活動による影響を受けやすく、生物種や個体数等は時間とともに変化することから、選定種の追加、削除、カテゴリー区分の変更等見直しが必要とされるので、2000年からは改訂版に取りかかり、2006年、昆虫類の完成により全9冊が刊行された。 
 国レベルでの絶滅のおそれのある種の選定は、全国を基準にして行われたものであることから、その地域の自然的・社会的特性に応じて地域レベルで作成する必要があり、47都道府県のほか自治体、学術団体等でも作成され、特に水産庁(1998)のレッドデータブックは海生を含む水生生物を対象としたものである。
 このような観点から、松山市では2002年度に『レッドデータブックまつやま2002』を刊行し、この度、『レッドデータブックまつやま2012』を発刊することとなった。

3. 調査の経緯と体制

1). 調査の経緯

 改訂版のレッドデータブックまつやま2012年版は、2009年度から松山市長により委託を受けた「まつやま自然調査会」によって作成が実施された。調査会は対象分類群別に10分科会を組織して検討を行うと共に、各分科会の代表者で編集委員を兼ねた座長により構成される座長会で連絡調整を行った。対象とした生物群は哺乳類、鳥類、爬虫類・両生類、淡水魚類、昆虫類、クモガタ類・多足類、貝類・淡水甲殻類、海岸動物、高等植物、高等菌類であった。80余名から成る専門分科会では、文献や標本など地元研究者によって蓄積された資料の解析と現地調査が実施された。
 座長会は年3回、分科会は適宜開催され、レッドデータブックまつやま2002年版を基に ①現地調査など調査法の検討 ②カテゴリー定義と選定種のカテゴリー区分の見直し ③レッドリスト選定種の追加、削除  ④レッドデータブック記載内容の検討等が行われた。

2). 調査の体制

まつやま自然環境調査会
(◎:会長 ○:副会長 ☆:座長、50音順)

■哺乳類分科会
芝 実 松山東雲短期大学名誉教授
  宮内 康典 獣医師
  山本 貴仁 NPO法人西条自然学校
■爬虫類・両生類分科会
岡山 健仁 面河山岳博物館
  宇和  孝 河原医療大学校
  田辺 真吾 日本爬虫両棲類学会会員
■淡水魚類分科会
清水 孝昭 愛媛県水産研究センター栽培
資源研究所
  高橋 弘明 株式会社西日本科学技術研究所
  渋谷 雅紀 住鉱テクノリサーチ株式会社
  川西 亮太 愛媛大学大学院理工学研究科
■クモガタ類、多足類分科会
鶴崎 展巨 鳥取大学地域学部
  石川 春子 愛媛大学連合大学院特定研究員
■貝類分科会
石川  裕 日本貝類学会会員
  柴田 健介 日本貝類学会会員
  千葉  昇 愛媛県立長浜高等学校
  水野 晃秀 媛県立宇和島水産高等学校
■高等植物分科会
○☆ 松井 宏光 松山東雲短期大学
  池内  伸 愛媛植物研究会
  大高 茂範 愛媛植物研究会
  小沢  潤 愛媛植物研究会
  白形 毅史 愛媛植物研究会
  得居  修 愛媛植物研究会
  兵頭 正治 愛媛植物研究会
■写真を提供いただいた方(分科会員除く)
(五十音順) 末岡 高則 藤井 康隆
井上 勝巳 須賀 秀夫 藤田 幹雄
今川 義康 菅谷 和希 政岡  孝
大高 成元 十亀 茂樹 松野 茂富
大林 延夫 高橋 士朗 山内  晃
小川  遼 武智 礼央 山内 精六
片山 雄史 田辺  力 山内 康史
北添 伸夫 田辺 秀男 山迫 淳介
桑田 一男 豊嶋 立身 山本 栄治
桑原 文典 新田 涼平 山本 武彦
佐藤 陽一 埴淵 謙一 渡部 晃平
白石 勝博 原  有助  
■鳥類分科会
◎☆ 石川 和男 松山東雲女子大学名誉教授
  秋山 勁三 野鳥研究家
  秋山  勉 日本野鳥の会愛媛
  井戸 浩之 日本野鳥の会愛媛
  岩本  孝 日本野鳥の会愛媛
  小川 次郎 日本野鳥の会愛媛
  丹下 一彦 日本野鳥の会愛媛
  宮岡 速実 日本野鳥の会愛媛
■昆虫類分科会
酒井 雅博 愛媛大学ミュージアム
  石川 春子 愛媛大学連合大学院特定研究員
  小川 次郎 愛媛大学連合大学院特定研究員
  片岡 敬一 日本昆虫分類学会会員
  菅   晃 日本昆虫分類学会会員
  菊原 勇作 松山市職員
  窪田 聖一 愛蝶会会員
  久松 定智 愛媛大学連合大学院特定研究員
  宮武 睦夫 日本昆虫分類学会会員
  矢野 真志 面河山岳博物館
  吉富 博之 愛媛大学ミュージアム
■海岸動物分科会
大森 浩二 愛媛大学沿岸環境科学研究センター
  大西秀次郎 愛媛大学沿岸環境科学研究センター
  國弘 忠生 愛媛大学沿岸環境科学研究センター
  濱岡 秀樹 愛媛大学沿岸環境科学研究センター
■高等菌類分科会
小林 真吾 愛媛県総合科学博物館
  池内 啓子 愛媛きのこ観察会
  大本 幸徳 愛媛きのこ観察会
  小川 尚志 愛媛きのこ観察会
  沖野登美雄 愛媛きのこ観察会
  越智 一馬 愛媛きのこ観察会
  豊田 益実 愛媛きのこ観察会
  長尾 文尊 愛媛きのこ観察会

4. 調査の対象と範囲

 本調査で対象とする生物群は、「レッドデータブックまつやま2002」と同様であるが、以下に再掲する。

1. 一般的によく知られており、生物学的知見(分類、分布、生活史等)が比較的蓄積されている種を含む生物群を対象とした。原則として、肉眼で確認できない小さなものは対象外とした。
2. 陸産・淡水産の種、潮下帯を含む海岸域の生物は対象としたが、それ以外の海産のものは対象外とした。
3. 野生化飼養鳥類および飼育動物、帰化動植物(おおむね江戸時代中期以降)、栽培植物とその逸出種などの自然分布しない移入種および侵人種は対象から除いた。
4. 松山市内で確認記録はあるが、誤同定と確認されたものは除いた。

 調査対象の生物群は次のとおりである。
①哺乳類、②鳥類、③爬虫類・両生類、④淡水魚類、⑤昆虫類、⑥クモガタ類・多足類、⑦海岸動物、 ⑧貝類・淡水産甲殻類、⑨高等植物、⑩高等菌類。

 なお本調査で対象とする分類群のレベルは、動物では種および亜種、植物では種・亜種・変種および品種とした。

 本調査における「松山市」とは、行政区域としての松山市(潮間帯および潮下帯を含む)を指すが、河川による境界線については、動物に限りその対岸までを含めた。なお「レッドデータブックまつやま2002」の発行以後、2005年に松山市は旧北条市、旧温泉郡中島町と合併したため、今回の調査範囲は拡大している。

5. カテゴリー区分

 松山市版レッドデータブックのカテゴリー区分は、他のレッドデータブックと比較しやすくするために、環境省のカテゴリー区分に準じたものとして設定したが、松山市自体の面積が限られているため、地域個体群と定量的要件の面積の条項は設定しなかった。

区分及び基本概念 定性的要件 定量的要件
絶滅
Extinct(EX)

我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
過去に我が国に生息したことが確認されており、飼育・栽培下を含め、我が国ではすでに絶滅したと考えられる種  
野生絶滅
Extinct in The Wild (EW)

飼育・栽培下でのみ存続している種

過去に我が国に生息したことが確認されており、飼育・栽培下では存続しているが、我が国において野生ではすでに絶滅したと考えられる種

【確実な情報があるもの】
①信頼できる調査や記録により、すでに野生で絶滅したことが確認されている。
②信頼できる複数の調布によっても、生息が確認できなかった。
【情報量が少ないもの】
③過去50年間前後の間に、信頼できる生息の情報が得られていない。

 




T
H
R
E
A
T
E
N
E
D
絶滅危惧I類 
(CR十EN)

絶滅危惧I類(CR十EN)絶滅の危機に瀕している種現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難なもの。

次のいずれかに該当する種
【確実な情報があるもの】

①既知のすべての個体群で、危機的水準にまで減少している。
②既知のすべての生息地で、生息条件が著しく悪化している。
③既知のすべての個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている。
④ほとんどの分布域に交雑のおそれのある別種が侵入している。

【情報量が少ないもの】
⑤それほど遠くない過去(30年~50年)の生息記録以後確認情報がなく、その後信頼すべき調査が行われていないため、絶滅したかどうかの判断が困難なもの。

絶滅危惧IA類CriticallyEndangered
(CR)

ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。

絶滅危惧IA類(CR)
A、次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。

1、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、90%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっており、かつ理解されており、かつ明らかに可逆的である。

2、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、80%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。

3、今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、80%以上の減少があると予測される。

4、過去と未来の両方を含む10年間もしくは3世代のどちらか長い期間において80%以上の減少があると推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。

B、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。

1.生息地が過度に分断されているか、ただ1ヵ所の地点に限定されている。

2、出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。

3、出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

C、個体群の成熟個体数が250未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。1.3年間もしくは1世代のどちらか長い期間に25%以上の継続的な減少が推定される。

2、成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ次のいずれかに該当する。a)個体群構造が次のいずれかに該当
i)50以上の成熟個体を含む下位個体群は存在しない。
ii)1つの下位個体群中に90%以上の成熟個体が属している。
b)成熟個体数の極度の減少

D、成熟個体数が50未満であると推定される個体群である場合。

E、数量解析により、10年間、もしくは3世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が50%以上と予測される場合。

      絶滅危惧IB類Endangered(EN)
IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの

絶滅危惧IB類(EN)
A、次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。

1、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、70%以上減少があったと推定され、その原因がなくなっており、かつ理解されており、かつ明らかに可逆的である。

2、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以トの減少があったと推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。

3、今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以上の減少があると予測される。

4、過去と未来の両方を含む10年間もしくは3世代のどちらか長い期間において50%以上の減少があると推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。

B.次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。
1、生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。

2、出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。

3、出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

C、個体群の成熟個体数が250未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。

1.3年間もしくは1世代のどちらか長い期間に25%以上の継続的な減少が推定される。

2、成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ次のいずれかに該当する。
a)個体群構造が次のいずれかに該当
i)50以上の成熟個体を含む下位個体群は存在しない。
ii)1つの下位個体群中に90%以上の成熟個体が属している。
b)成熟個体数の極度の減少

D.成熟個体数が50未満であると推定される個体群である場合。

E、数量解析により、10年間、もしくは3世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が50%以上と予測される場合。

  絶滅危惧Ⅱ類Vulnerable(VU)
絶滅の危険が増大している種現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。
次のいずれかに該当する種【確実な情報があるもの】
①大部分の個体群で個体数が大幅に減少している。
②大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化しつつある。
③大部分の個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている。
④分布域の相当部分に交雑可能な別種が侵人している。

A、次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。

1、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっており、かつ理解されており、かつ明らかに可逆的である。

2、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、30%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。

3、今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、30%以上の減少があると予測される。

4、過去と未来の両方を含む10年間もしくは3世代のどちらか長い期間において30%以上の減少があると推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。

B、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。

1、生息地が過度に分断されているか、10以下の地点に限定されている。

2、出現範囲、生息地面積、成熟個体数等について、継続的な減少が予測される。

3、出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

C、個体群の成熟個体数が10,000未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。

1.10年間もしくは3世代のどちらか長い期間に10%以上の継続的な減少が推定される。

2、成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ次のいずれかに該当する。
a)個体群構造が次のいずれかに該当
i)1,000以上の成熟個体を含む下位個体群は存在しない。
ii) 1つの下位個体群中にすべての成熟個体が属している。
b)成熟個体数の極度の減少

D、個体群が極めて小さく、成熟個体数が1,000未満と推定されるか、生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されている場合。

E.数量解析により、100年間における絶滅の可能性が10%以上と予測される場合。

  準絶滅危惧
Near Threatened (NT)

存続基盤が脆弱な種現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの。
次に該当する種
生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。具体的には、分布域の一部において、次のいずれかの傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 
a)個体数が減少している。 
b)生息条件が悪化している。 
c)過度の捕獲・採取圧による圧迫を受けている。 
d)交雑可能な別種が侵入している。
 
  情報不足
Data Deficient (DD)

評価するだけの情報が不足している種
次に該当する種 
環境条件の変化によって、容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行し得る属性(具体的には、次のいずれかの要素)を有しているが、生息状況をはじめとして、ランクを判定するに足る情報が得られていない種。 
a)どの生息地においても生息密度が低く希少である。
B)生息地が局限されている。 
c)生物地理上、孤立した分布特性を有する(分布域がごく限られた固有種等)。 
d)生活史の一部または全部で特殊な環境条件を必要としている。
 

6. 選定結果

1.選定結果の概要

 今回の全掲載種は732種であり「まつやまレッドデータブック2002」(以下、2002年版)よりも182種も増加した。この増加の主な理由は、合併による市内の広域化により、旧北条市の高縄山など山岳および旧中島町の島しょ部があらたに含まれたことであるが、旧松山市において生息生育環境の悪化により新規追加あるいはランク上位変更が生じている。
 以下に2002年版と比較しながら概要を述べる。
 「絶滅(以下、EX)」および「野生絶滅(以下、EW)」は46種から51種に増加した。新たに追加された種は、哺乳類のニホンカワウソ、昆虫類のキイロサナエ、スジゲンゴロウ、クロシジミ、高等植物のクモノスシダ、コタニワタリ、サンショウモ、コウホネ、タコノアシ、ヒナノカンザシ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、高等菌類のエヒメウスバタケの13種である。
 一方、2002年版はEXおよびEWと判定された種のうち昆虫類のマルクビツチハンミョウ、海岸動物のミドリシャミセンガイ、貝類のコオロギ、オオウスイロヘソカドガイ、高等植物のミズワラビ、ナガサキシダ、イヌノフグリ、ノハナショウブ、タチハコベ、アサザの10種が、現存確認あるいは現存の可能性があるとしてEX以外のランクに変更された。

 新規に掲載された種は212種であり、うちEXが6種、絶滅危惧ⅠA類(以下、CR)、絶滅危惧ⅠB類(以下、EN)が66種、絶滅危惧Ⅱ類(以下、VU)が36種、準絶滅危惧(以下、NT)が54種、情報不足(以下、DD)が50 種である。新規掲載種のなかには旧北条市および旧中島町において新たに追加された種が多い。
 ランクが上位に変更された種は121種であり、そのうち74種はDD以外のランクから上位に変更された種は3474種であり、上方修正された主な原因は、溜め池・水路・河川などの改修工事や水質悪化、海浜の改修工事、放棄水田の遷移進行、二次林・草地の管理不足による遷移進行、外来種の侵入による被圧などが考えられる。とくに里山、里地、里海と言われる居住地に隣接した範囲において絶滅危険性が高まっていることが憂慮される。DDからEX ~ VUへのランクの変更は、2002年版の公表以後の調査で生息・生育が確認されたことによる場合が多い。
 一方でランクが下位に変更された種は69種である。イタチ、アナグマ、ナベヅル、マナヅル、アカハライモリ、ヤマカガシ、ツマグロキチョウ、ジュウニヒトエ、キキョウ、ハマサジ、ツキヨタケなどである。これらの多くは市内の広域化によって新たな生息生育地が確認されたことによるランクの下方修正である。

 なおランクの変更がない種は330種である。

全種数 732種 2002年版は550種
新規に掲載された種 212種  
ランクが上位に変更された種 121種 うちDD以外から上位に変更された種は46種
ランクが下位に変更された種 69種  
ランクに変更のない種 330種  

2.選定種数

分類群 RDB種 合計
絶滅 絶滅危惧種 松山RDB
絶滅
(EX)
野生
絶滅
(EW)
絶滅危惧Ⅰ類 Ⅱ類
(VU)

絶滅
危惧
(NT)
情報
不足
(DD)
A類
(CR)
B類
(EN)
2012 2002
哺乳類 2 0 1 0 6 3 12 13
鳥類 0 0 8 10 16 18 7 59 51
爬虫類
0 0 2 2 5 1 10 10
両生類 0 0 4 3 1 0 8 8
淡水魚類 0 0 2 3 5 6 6 22 18
昆虫類 12 1 44 42 54 13 166 68
クモガタ類 0 0 0 0 0 5 1 6 3
多足類 0 0 0 0 0 0 4 4 2
海岸動物 0 0 4 1 8 1 15 29
1
海産貝類 2 0 2 0 9 1 14
陸・淡水産貝類 1 0 26 3 5 0 35 27
淡水産甲殻類 0 0 0 0 0 1 0 1 1
高等植物 32 0 55 81 46 19 100 333 285
高等菌類 1 0 14 17 5 10 47 35
松山RDB2012 50 1 392 142 147 732  
松山RDB2002 46 2 236 94 172 550