概要

 松山市で生息が確認された鳥類は290種、そのうち、『レッドデータブックまつやま2012』には検討の結果59種が選定された。

 松山平野の東方と北方には低山地(二次林・果樹園など)から標高1000m級の山地(自然林・二次林など)が連なっている。また、市内を流れる石手川は下流域で重信川と合流し、河口には干潟が発達している。

 2005年、松山市は北条市と温泉郡中島町を編入、これに伴い、立岩川の流れる北条の平野や高縄山地と忽那諸島の島々の地域を含むことになった。
 この変化に富んだ地形が植生の多様性を生み、鳥相を含む動物相を豊かにしている。特に、生態系ピラミッドの最上位に位置し、環境の指標とされる猛禽類のクマタカやオオタカが松山市に生息していることは、バランスのとれた豊かな自然環境を象徴しているといえる。

 松山市の鳥類をとりまく自然環境をみると、10年前に比べ開発行為による自然環境の改変は減少している。しかし、過去の改変による自然林の人工林化や果樹園化、市街地周辺の大規模な宅地化等により、植生は単調化しており、餌となる昆虫や木の実も減少して、鳥類にとっては住みにくい環境になってきた。また、河川改修にともなう護岸のコンクリート化、池や湿地の埋め立て、ヨシ原や水田、干潟の減少などによっても生息環境が悪化してきた。その反面、放置された松枯れの林、スギ・ヒノキの植林地、果樹園などに広葉樹など潜在自然植生の復活が徐々に進み、生物多様性の回復の兆しも見られるようになった。このような状況にあって、生物多様性を維持しながら人と自然の共生を図るためには、現存する森林や干潟などの環境の保全にとどまらず、多様性豊かな環境の構築が望まれる。

 『レッドデータブックまつやま2002』の発表以降、調査対象地域の拡大、生息環境の変化や種の生息状況の変化が見られていた。そこで、10年ぶりに絶滅のおそれのある鳥類の見直しを行った。レッドリスト種の選定に際しては、松山市に周年生息しているかどうか、毎年一定期間生息していることが確実な種を対象とし、迷鳥や稀な観察記録しかない種(干潟やヨシ原といった保全すべき重要な生息環境を利用しているものを除く)は除外することとした。

 その結果、『レッドデータブックまつやま2012』では絶滅危惧IA類8種、絶滅危惧IB類10種、絶滅危惧Ⅱ類16種、準絶滅危惧18種、情報不足7種、合計59種を選定した。2002は51 種であった。

 これらの選定種について、2002との相違をみると、冬鳥のコクガン、マガン、ヒシクイ、旅鳥のアカモズ、ノジコは飛来が稀なため2012の選考から除外した。一方、松山市の面積の拡大に伴い新しく記録され、選定された種は、アビ、カンムリウミスズメ、カラスバト、ウチヤマセンニュウである。このうち、ウチヤマセンニュウは愛媛県内で初めて記録され、且つ繁殖が確認されたことが特筆される。カラスバトについては、抱卵や幼鳥が未確認ながら繁殖の可能性は極めて大きい。また、湿地、水辺、草地、樹林等の生息環境の悪化に伴い、新しく選定された種はササゴイ、クロサギ、ハイイロチュウヒ、ヒクイナ、タマシギ、ジュウイチ、トラフズク、ヤマセミ、アカショウビンである。

 2002年以降、生息環境の悪化等に伴いカテゴリーのランクを上げた種はミゾゴイ、サシバ、チュウヒ、ヘラシギ、ズグロカモメ、ウミスズメ、コノハズク、ヨタカである。サシバの顕著な減少は谷地田など水田と林の複合する場所の減少、水田の中干しによる餌不足のほか、ミゾゴイ、ヨタカと同様、越冬地である東南アジアの森林環境の悪化も減少の一因と推察される。

 鳥類の生息状況に関する情報は現地調査と文献調査を基本としたが、現地調査については時間的あるいは活動できる人に制約があったため、多くの情報は「日本野鳥の会愛媛」で蓄積されたものから得られた。また、種ごとのカテゴリー区分の評価は定量的なデータが得難いため、専門家の知見等による定性的な評価に基づいて行われた。

 なお、学名等は『日本鳥類目録改訂第6版』(日本鳥学会、2000)に準拠した。

(執筆者:石川 和男)

鳥類一覧

和名 科名 RDBランク
アビアビ科準絶滅危惧(NT)
オオハムアビ科準絶滅危惧(NT)
シロエリオオハムアビ科準絶滅危惧(NT)
サンカノゴイサギ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
ヨシゴイサギ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
ミゾゴイサギ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
ササゴイサギ科準絶滅危惧(NT)
チュウサギサギ科準絶滅危惧(NT)
カラシラサギサギ科準絶滅危惧(NT)
クロサギサギ科準絶滅危惧(NT)
ヘラサギトキ科情報不足(DD)
クロツラヘラサギトキ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
アカツクシガモカモ科情報不足(DD)
ツクシガモカモ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
オシドリカモ科情報不足(DD)
トモエガモカモ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ミサゴタカ科準絶滅危惧(NT)
ハチクマタカ科準絶滅危惧(NT)
オオタカタカ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ツミタカ科準絶滅危惧(NT)
ハイタカタカ科準絶滅危惧(NT)
サシバタカ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
クマタカタカ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
ハイイロチュウヒタカ科準絶滅危惧(NT)
チュウヒタカ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
ハヤブサハヤブサ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ウズラキジ科情報不足(DD)
ヤマドリキジ科準絶滅危惧(NT)
ナベヅルツル科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
マナヅルツル科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ヒクイナクイナ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
タマシギタマシギ科準絶滅危惧(NT)
ヘラシギシギ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
シベリアオオハシシギシギ科情報不足(DD)
アカアシシギシギ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
カラフトアオアシシギシギ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
ホウロクシギシギ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
コシャクシギシギ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
オオジシギシギ科準絶滅危惧(NT)
セイタカシギセイタカシギ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ツバメチドリツバメチドリ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ズグロカモメカモメ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
コアジサシカモメ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
ウミスズメウミスズメ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
カンムリウミスズメウミスズメ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
カラスバトハト科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ジュウイチカッコウ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
トラフズクフクロウ科準絶滅危惧(NT)
コノハズクフクロウ科絶滅危惧ⅠB類(EN)
オオコノハズクフクロウ科情報不足(DD)
アオバズクフクロウ科準絶滅危惧(NT)
ヨタカヨタカ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ヤマセミカワセミ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
アカショウビンカワセミ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ブッポウソウブッポウソウ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
ヤイロチョウヤイロチョウ科情報不足(DD)
サンショウクイサンショウクイ科絶滅危惧ⅠA類(CR)
ウチヤマセンニュウウグイス科絶滅危惧ⅠB類(EN)
サンコウチョウカササギヒタキ科準絶滅危惧(NT)

参考文献

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  • 2) 愛媛県立松山中央高等学校バードウォッチング部(1993)重信川中流域の野鳥.22pp.
  • 3) 愛媛県立校山中央高等学校バードウォッチング部(1996)重信川中流域の野鳥調査.23pp.
  • 4) 愛媛県立校山中央高等学校バードウォッチング部(2002)重信川中流域の野鳥調査.34pp.
  • 5) 愛媛県立校山中央高等学校バードウォッチング部(2007)重信川中流域の鳥類調査.28pp.
  • 6) 石原保(1982)四国の野鳥誌.190pp.,築地書館,東京.
  • 7) 石原保・森下強(1978)演習林の鳥相.愛媛大学農学部演習林報告,(15):135-145.
  • 8) 石川和男・大野正・澤田佳長・柴折史昭・曽良寛武・森川圃康・山本正幸(1995)四国の野鳥.215pp.,高知新聞社,高知.
  • 9) 五百沢目丸・山形則男・吉野俊幸(2000)日本の鳥550山野の鳥.359pp.,文一総合出版,東京.
  • 10) 叶内拓哉・安部直哉・上田秀雄(1998)山渓ハンディ図鑑7 日本の野鳥.623pp.,山と渓谷社,東京.
  • 11) 桐原政志・山形則男・吉野俊幸(2000)日本の鳥550水辺の鳥.352pp.,文一総合出版,東京.
  • 12) 真木広造・大西敏一(2000)日本の野鳥590.654pp.,平凡社,東京.
  • 13) 百瀬淳子(1998)アビよ風を起こせ-伝統漁法復活の試み-.野鳥,(612):28-31,日本野鳥の会,東京.
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  • 16) 中村登流・中村雅彦(1995)原色日本野鳥生態図鑑〈水鳥編〉.304pp.,保育社,東京.
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  • 22) 日本野鳥の会愛媛県支部(1983 ~ 2010)日本野鳥の会愛媛県支部報 コマドリ,(1)-(196).
  • 23) 日本野鳥の会愛媛県支部(1986,1987)日本野鳥の会愛媛県支部報,(11)-(12).松山.
  • 24) 日本野鳥の会愛媛県支部(1992)愛媛の野鳥観察ハンドブックはばたき.383pp.,愛媛新聞社,松山.
  • 25) 日本野鳥の会愛媛県支部(1996)改訂版 愛媛の野鳥観察ハンドブックはばたき.383pp.,愛媛新聞社,松山.
  • 26) 小川次郎(1999)松山城山とその周辺での最近20年間のサンショウクイの記録変化.夏鳥の減少実態研究報告,98-103.
  • 27) 小川次郎・大林延夫(1999)愛媛大学農学部附属演習林の鳥類相とその変遷とくに環境(植生)変化との関係について.愛媛大学農学部演習林報告,(37):23-41.
  • 28) 高野伸二(1980)野鳥識別ハンドブック.327pp.日本野鳥の会,東京.
  • 29) 高野伸二(2007)フィールドガイド日本の野鳥増補改訂版.376pp.,日本野鳥の会,東京.
  • 30) 高野伸二編(1985)山渓カラー名鑑日本の野鳥.591pp.,山と渓谷社,東京.
  • 31) 高野伸二・叶内拓哉・森岡照明(1981)カラー写異による日本産鳥類図鑑.474pp.,東海大学出版会,東京.
  • 32) 山本健次郎・三宅貞敏(1994)光市牛島におけるカラスバトの生息状況と生態. 山口県立山口博物館研究報告,(20):1-25.

用語解説

羽角(うかく) フクロウ類などの頭部にある耳のように見える左右一対の羽毛の束のこと。
換羽(かんう) 定期的に羽毛が抜け換わること。少なくとも年1回、多くのものは春秋の2回換羽する。
冠羽(かんう) 頭に生える長い羽毛の束。1年中あるものと、季節によりあるものとがある。
滑翔(かっしょう)
グライディング(gliding)
羽ばたかずに翼を広げたまま飛ぶこと。羽ばたきの間に行うことが多い。
聞きなし(ききなし) 鳥の鳴き声を意味のある言葉などに置き換えたもの。例:ウグイス「ホーホケキョ(ホー法華経)」、ホトトギス「特許許可局」など。
コロニー 集団繁殖している鳥の群れまたは集団営巣地のこと。愛媛県内では、サギ類やコアジサシなどで見られる。
さえずり おもに繁殖期に発する歌のこと。縄張りの宣言やつがいの相手への求愛、種類や個体の識別のためといわれる。
種の保存法
(しゅのほぞんほう)
正式名称は「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律」といい、1993年4月に施行された。「個体等の取り扱いに関する規制」「生息地等の保護に関する規制」「保護増殖事業」の三本柱からなり、国内外の絶滅のおそれのある野生生物を保護するために定められた法律。
成鳥(せいちょう) 性的に成熟した、繁殖能力のある鳥のこと。成鳥になるまでの期間は種によって異なるが、多くの小鳥ではふ化後1年程度。幼鳥羽から成長して、それ以上羽毛の変化が進まなくなった年齢の個体を成鳥羽の個体という。
全長(ぜんちょう) 嘴の先から尾の先までの長さ。鳥を仰向けにして首を軽く伸ばした状態で計測する。
托卵(たくらん) 自分では巣を作らないで、他の鳥の巣に卵を産み込み、ひなを育てさせること。日本で繁殖する鳥ではカッコウ科の鳥で知られている。
旅鳥(たびどり) 北方の繁殖地と南方の越冬地を往復する渡りの途中、採餌や休息のため日本に立ち寄る鳥のこと。春は南から北へ、秋は逆に北から南へ通過する。シギ・チドリ類の多くがこれに該当する。
夏鳥(なつどり) 春に南方から渡ってきて繁殖し、秋に南へ去っていく鳥のこと。サシバ、コアジサシ、サンコウチョウなど。
夏羽(なつばね) 春と秋に換羽する鳥で、春から夏にかけての羽をいう。繁殖期に当たることが多く、雄では鮮やかで美しい羽色のものが多い。
縄張り(なわばり) ある生物が生活あるいは繁殖に必要な一定の空間を占有し、他の個体の侵入を拒む区域をいう。
ねぐら 眠ったり休息するための場所のことで、繁殖のための巣とは異なる。種類や季節によってねぐらの場所は異なり、また単独の場合と集団の場合がある。
帆翔(はんしょう)
ソアリング(soaring)
上昇気流を利用して翼を広げたまま、羽ばたかずに飛翔する飛び方。タカ類や海鳥がよく行う。
冬鳥(ふゆどり) 秋に北方から渡って来て冬を過ごし、春に北へ帰って行く鳥のこと。ガン類、カモ類など。
冬羽(ふゆばね) 春と夏に換羽する鳥で、秋から冬にかけての羽をいう。夏羽に比べ、地味な色合いのものが多い。
ホバリング(hovering)
停空飛翔(ていくうひしょう)
空中の一点に停止した状態で、羽ばたいていること。水中や地上の餌をねらってミサゴやコアジサシがよく行う。
迷鳥(めいちょう) 台風に流されたり、その他なんらかの理由で通常の生息地や渡りのコースからそれて迷ってきた鳥のこと。
幼鳥(ようちょう) 卵からかえって羽毛が生えそろい、第1回目の換羽を終えるまでの時期の鳥のこと。
翼開長(よくかいちょう) 左右の翼を広げた時の翼の先端から先端までの長さ。
留鳥(りゅうちょう) ある地域で1年中生活し、季節によって移動しない鳥のこと。ヒヨドリ、スズメなど。ただし、その一部は渡りや分散のため移動しているものもいる。
若鳥(わかどり) 第1回目の換羽を終えてから、成鳥羽になるまでの時期の鳥をいう。亜成鳥のこと。
ワシントン条約
(ワシントンじょうやく)
正式名称は「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。1973年にワシントンで採択された。野生動植物が国際取引によって過度に利用されるのを防ぐため、国際協力によって種を保護するための条約。取引が規制される野生生物のリストは、絶滅のおそれの度合いに応じて附属書Ⅰ~Ⅲに掲載される。 
附属書Ⅰ: 絶滅の危険性がある生物。商業目的のための取引は禁止。 
附属書Ⅱ: 将来、絶滅の危険性が高くなるおそれのある生物。輸出入に際しては輸出国の政府が発行する輸出許可書が必要となる。 
附属書Ⅲ: 自国の生物を守るために、国際的な協力を求めている生物。輸出入する場合には、輸出国の政府が発行する輸出許可書等が必要となる。
渡り(わたり) 繁殖地と越冬地の間を、季節によって定期的に移動すること。渡りの理由については多くの学説があるが解明されていない部分も多い。