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概要

 菌類と呼ばれる生物には時として様々な区分がなされるが、一般的な特徴としては①細胞壁を持つ真核生物で、②基本構造は菌糸であり、③光合成をしない、などがあげられ、おもにカビとキノコ、それに酵母を加えた生物群を指す。広義には変形菌類やサカゲツボカビ類、卵菌類などの偽菌類や地衣類までをも含むこともあり、これらの生物も含めた目録・RDB作成は途方もない作業となる。このためこのRDBでは、「高等菌類」として一部のグループを取り上げることとし、それらは「狭義の菌類に属する担子菌類と子嚢菌類の一部で、肉眼的な子実体を形成する種群」という人為的なグループであることを、はじめにお断りしておく。

 絶滅危惧種は、個体数の推定と個体群の減少率を算定する定量的要件か、個体群の存続に影響を与える外的要因から類推する定性的要件のいずれかによって、絶滅リスクを判断する。普段、我々が目にする「きのこ」は、地中あるいは材木中に伸びた菌糸が胞子を撒き散らすために作り上げた「子実体」と呼ばれる器官である。菌類の本体はこの「菌糸」であり、「きのこ」そのものを個体とはみなさない。したがって、高等菌類の絶滅リスクの判断は定性的要件によって判断されることが一般的で、このRDBにおいても同様である。

 2002年に刊行された松山市野生動植物目録では392種の高等菌類がリストアップされたが、今回の改訂では141 種の高等菌類が追加され、合計533 種の高等菌類が目録に掲載された。愛媛県全域で確認されている高等菌類が概ね1,2 00種であることを考えると、およそ半分ほどの種が松山市で確認されていることとなる。そのうち、絶滅種として1種、絶滅リスクの最も高い絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)として14種、比較的絶滅リスクの高い絶滅危惧Ⅱ類(VU)として17種、比較的絶滅リスクの低い準絶滅危惧種(NT)として5種、絶滅リスクは認められるがその判断が難しい情報不足(DD)として10種がこの改訂版RDBで選定された。

 前回のRDBでは、環境省から刊行されたRDB種の選定状況を重視しつつ、松山市での観察記録を考慮して種選定を行った。今回の種選定では、10年間の観察記録を基にした種の加除はもとより、市域の拡大や自然環境の変容に伴うリスク変化を反映させた。とりわけ里地里山における菌類の発生環境として重要であったアカマツを中心とした森林と、瀬戸内の景観として愛された白砂青松を構成した海岸の松林の減少を考慮し、これらの松林に発生する菌根菌や砂地性菌類の絶滅リスクが相対的に高いものとなっている。一方で、市域の拡大に伴いブナを主体とする冷温帯林のエリアが増えたことから、ブナ・ミズナラ林を主な発生環境とするいくつかの種では絶滅リスクが減じている。

 このRDBでは、学名は主として勝本(2010)に従い、種の配列に関しては系統進化生物研究所編(2004)および杉山編(2005)を参考とした。菌類分野では現在、分子系統学的研究に基づく分類体系の見直しが盛んに行われているため、科以上の高次分類群の配列は流動的であり、各種類書と学名表記及び配列に若干の相違があることを付記しておく。

(執筆者:小林 真吾)

高等菌類一覧

和名 科名 RDBランク
ニクアツベニサラタケベニチャワンタケ科情報不足(DD)
イボセイヨウショウロセイヨウショウロタケ科情報不足(DD)
クチキトサカタケビョウタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
スズキセミタケ麦角菌科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ガヤドリナガミノツブタケ麦角菌科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
フデタケクロサイワイタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ムカシオオミダレタケ膠多孔菌科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
カゴタケアカカゴタケ科情報不足(DD)
イカタケアカカゴタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
アカイカタケアカカゴタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ツマミタケアカカゴタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
キヌガサタケスッポンタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ウスキキヌガサタケスッポンタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
エヒメウスバタケタバコウロコタケ科絶滅(EX)
キヌハダタケタバコウロコタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ラッコタケタバコウロコタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
メシマコブタバコウロコタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ツヤナシマンネンタケツヤナシマンネンタケ科準絶滅危惧(NT)
コゴメウスバタケコウヤクタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ハツタケベニタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
コウヤクマンネンハリタケマンネンハリタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
マツカサタケマツカサタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
コウタケイボタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
オガサワラハリヒラタケイドタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
セイタカイグチオニイグチ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
アイゾメイグチクリイロイグチ科情報不足(DD)
アイゾメクロイグチイグチ科情報不足(DD)
ショウロショウロ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ジャガイモタケジャガイモタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ツチグリカタカワタケニセショウロ科情報不足(DD)
ヌメリササタケフウセンタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
ホンシメジキシメジ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ツキヨタケキシメジ科準絶滅危惧(NT)
シロノハイイロシメジキシメジ科情報不足(DD)
キシメジキシメジ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
シモコシキシメジ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
マツタケキシメジ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
ウラムラサキシメジキシメジ科情報不足(DD)
スナジホウライタケホウライタケ科準絶滅危惧(NT)
スナジクズタケヒトヨタケ科準絶滅危惧(NT)
クロヒメオニタケハラタケ科情報不足(DD)
ナガエノホコリタケケシボウズタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
サギウロコタケタチウロコタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)
タマチョレイタケタマチョレイタケ科絶滅危惧Ⅱ類(VU)
エビタケ

マンネンタケ科

準絶滅危惧(NT)
ニセカンバタケマンネンタケ科情報不足(DD)
ブクリョウアイカワタケ科絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)

参考文献

  • 1)朝比奈泰彦監修・小林義雄・今関六也(1939)日本隠花植物図鑑(菌類の部全般).199 ~ 606pp.三省堂.東京.
  • 2)本郷次雄監修・上田俊穂他(1994)フィールドブック⑩きのこ.382pp.山と渓谷社.東京.
  • 3)今関六也・本郷次雄(1987)原色日本新菌類図鑑Ⅰ.Pl.72+325pp.保育社.大阪.
  • 4)今関六也・本郷次雄(1987)原色日本新菌類図鑑Ⅱ.Pl.72+315pp.保育社.大阪.
  • 5)今関六也・本郷次雄・椿啓介 (1970)標準原色図鑑(14)菌類(きのこ・かび).175pp. 保育社 .大阪.
  • 6)今関六也・大谷吉雄・本郷次雄・(1988)山渓カラー名鑑日本のきのこ.622pp.山と渓谷社.東京.
  • 7)系統進化生物研究所(2004)菌類の新分類体系と世界全科分類表.93pp.生地研.東京.
  • 8)川村清一(1955 ~ 1956)原色日本菌類図鑑第1巻~第8巻.風間書房.東京.
  • 9)勝本謙(2010)日本産菌類集覧.1177pp.日本菌学会関東支部.東京.
  • 10)小林義雄(1938)大日本植物誌2ヒメノガスター亜目及びスッポンタケ亜目.90pp.三省堂.東京.
  • 11)小林義雄(1994)原色冬虫夏草図鑑381pp.(図版135)誠文堂新光社.東京.
  • 12)長尾英幸(1999)菌類レッドデーターブックの現状と将来.日本菌学会会報.40:44 ~ 48pp. 東京.
  • 13)沖野登美雄(1999)愛媛のキノコ図鑑.250pp.愛媛新聞社.愛媛.
  • 14)城川四郎・神奈川キノコ会(1996)猿の腰掛け類キノコ図鑑編.207pp.地球社.東京.
  • 15)杉山純多(2005)菌類・細菌・ウィルスの多様性と系統.492pp.裳華房.東京.

用語解説

管孔(かんこう)傘の裏面が管状になっていること。イグチ類やサルノコシカケなどの仲間に多い。
基準種(きじゅんしゅ)似通った特徴を持つグループの中で基準となる種。
寄生菌(きせいきん)腐朽木や落葉ではなく生きた状態の植物に発生する菌。
菌核(きんかく)地中の小枝や石などを菌糸で閉じ込めた塊。
菌根菌(きんこんきん)寄主植物の毛根に菌糸がまといついて生育する菌類。
菌糸束(きんしそく)細い菌糸が一方向に集まって束状になったもの。
菌網(きんもう)キヌガサタケなどの子実体に付随している網上の組織。マントとも呼ぶ。
菌蕾(きんらい)スッポンタケの仲間の幼菌が,卵様の状態で地中にあるものを指す。
菌腕(きんわん)イカタケやアカイカタケなどのように子実体の縁辺で腕のように伸びた部分のこと。
グレバスッポンタケの仲間の菌類にみられる胞子が混入した粘液状の物質。悪臭ときに芳香臭を発生し,昆虫類をおびき寄せる。
子実体(しじつたい)胞子をつくる繁殖器官。一般に「きのこ」と呼んでいる部分。
子嚢菌(しのうきん)菌類を構成する大きなグループ。子嚢と呼ばれる袋状の器官の中に内生する。
地下生菌(ちかせいきん)子実体を地中に形成する菌類。球形となるものが多い。
冬虫夏草(とうちゅかそう)おもに昆虫やクモなどの節足動物に寄生して発生するキノコの総称。
日本固有種
(にほんこゆうしゅ)
日本国内にのみ分布する生物。
背着生(はいちゃくせい)樹木に広がったように着生して生育する状態。
腐生菌(ふせいきん)樹木や落ち葉が腐ったものや堆肥などから発生する菌。
木材腐朽菌
(もくざいふきゅうきん)
サルノコシカケ類などのように樹木に発生し,材を腐朽させる菌類。
落葉分解菌
(らくようぶんかいきん)
地上に堆積した落葉や落枝を分解する菌類。
鱗片(りんぺん)傘の表面などでささくれ状に付着している小片。