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07 俳人 神野紗希
日常に俳句をこっそり入れ込んでしさをレコメンドしたい
1983年松山市生まれの俳人。お茶の水女子大学大学院に在籍し、近現代俳句を研究している。2002年にNHK-BS「俳句王国」の司会に抜擢され、2013年からはNHK-Eテレ「俳句さく咲く」で選者として出演している。現代女性の等身大を表現した作風にファンも多く、俳句WEBマガジン「spica」の立ち上げや、俳句を使った地域振興の企画も手がけるなど、幅広く活躍中。
神野紗希
□ MAIL landkarte_stern@yahoo.co.jp
□ URL 【俳句ウェブマガジン】
http://spica819.main.jp/
□ 業務内容 俳句創作、選句、俳句解説、句会、俳句講座、
句集に『星の地図』(まる工房)、
『光まみれの蜂』(角川書店)ほか
Q 俳句への入り口や、現在に至る経緯を教えて頂けますか?

高校一年生の時に放送部として俳句甲子園を取材したことで、俳句甲子園に興味をもち、翌年メンバーを集めて出場しました。ご存知の通り俳句甲子園では、チームが互いに句を出し合って、丁寧に読み解いてディベートしながら俳句の創作力と鑑賞力を競います。大街道のステージの上、大勢のギャラリーがいる中で、あんなに自分の句が注目される機会なんて、なかなかありませんよね。句を詠んで、発表して、見てもらえる、という喜びを高校生というかなり早い段階で知ることができました。もちろんその時は俳句甲子園が目的でしたから、将来俳句を生業にするとは全く思っていませんでしたよ。
転機となったのは大学3年生の時、NHKのBS番組「俳句王国」という番組に出演するようになったことです。前任の人が辞めるというタイミングで、たまたま条件的に可能だった自分に、白羽の矢が立ったという感じでした。その番組がきっかけで、色々な方にも知ってもらえたし、たくさんの先生方とお会いできて本当に勉強になりました。番組は6年ほど続きましたが、その間に大学生から修士、博士…と、番組と並行する形で大学院に進学しました。「俳句のことを優先したい」という気持ちからでしたが、どちらかと言うとその頃は「依頼されたものをやらせてもらう」というスタンスだったので「俳人としてやるぞ!」という意識はありませんでした。けれど20代の後半からは「自分からも発信していこう」という姿勢になったんです。今となっては、これが自分の「俳人としての仕事」の境界線だったかなと思います。そこから今に至ります。好きだなぁとか、楽しいなぁと思う事をやっていたら、それが仕事になった。本当に、幸せなことですよね。

Q 「俳人」ってどんなお仕事なんですか?

まずは俳句を作ることです。でも実は「俳句を作って発表する」ということは、あまり収入にはならないんですよ。一般的には門下生をとったりすることもありますが、選句が多いかもしれません。何かしらの俳句賞で句を選んだり、テレビや新聞などで「今日の一句」といった句を選び、解説をつけるお仕事です。またカルチャー教室での指導や、句会を開催することもあります。「俳人」と言えど、師範の名前や級や段といったものが公的にあるわけではないので、誰でも今日から「俳人」と名乗れます。俳句をたくさん作っている小学生を俳人と呼ぶこともできるし、俳句で食べている人を俳人と呼ぶこともできますね。ただ、俳句で食べていけている人はかなり少ないと思います。みなさん兼業でされてますね。

Q 東京を拠点にされている理由は?

東京と松山で比べると、やはり東京での仕事の方が断然多いです。松山でカルチャー教室を運営されている方とお話した時のエピソードですが、そこには俳句の教室が2つ程しかなくて、東京では一つのカルチャー教室に10~20クラスくらいあるので、私が「俳句の教室が少ないですね」と言うと、「松山はお金払って俳句をやろうって人はいない」って言われたんです(笑)。やろうと思えばみんなが教えてくれるし、どこでも身近に句会をやっている。考えてみれば、小学生の頃から夏休みの宿題には当たり前に俳句があって、親戚の誰かは俳句をしている。松山の人は自分たちが意識しないほどに、幼い頃から俳句に慣れ親しんで生活しているんです。私もそのおかげで俳句と出会えたわけですし。松山は俳句をやっている人なら誰もが憧れる俳句の聖地ですが、地元の方々からすると俳句は身近にありすぎて、ビジネスの視点では見られにくいと言えるかもしれませんね。

Q 地元・愛媛でのお仕事としては、どんなものがありますか?

地元情報誌での連載だったり、俳句ツアーだったり、細々したものはありますが、連続してというのはなかなかなありません。ですが新しい取り組みとしては、道後の「レグレットカフェ 歩音(アルネ)」さんとコラボして、季語になっている甘味メニューをセレクトした「俳句スイーツ」や、恋の俳句とその解説を付した「俳句恋みくじ」などの新商品を作らせてもらいました。この商品は、もともと私がやってみたい企画として勝手に考えていて、それをオーナーの黒川さんに見てもらったのがきっかけで実現しました。本で俳句だけを読むのとは違って、より身近に俳句を感じてもらえるようにしたいという想いがありました。「俳句=文学」という時点で、少し壁というか心理的な距離があるように思うんです。だから、すこしベタなものとくっつけてやりたいなと。ただその時に、俳句自体が軽くなったり、変に敷居を下げる形になるのは嫌だったので、俳句本来の良さというのを保ったままでできないかな…というのが、発想の起点でしたね。
「おみくじを引いたら俳句だった」とか「おいしいお菓子を食べたら、それが実は俳句の季語のお菓子だった」とか、「生活の中に俳句をこっそり入れ込んでおく」といった事ができたらいいなと思っています。俳句ってお店に例えるなら、奥の方にたくさん良いものを陳列してるのに、ショーウィンドーには何も並んでないような、ちょっと残念な感じだと思うんです。だから「みんなから見える場所にちょこっと置いておきたい」そんな気持ちはありますね。

Q 俳句の町だからこそ、できることがもっといろいろありそうですね。

そうですね。「俳句スイーツ」も、俳句の聖地であるからこそ、お土産ものや観光地のグルメとして成り立つと思います。松山は「俳句の町」という意識はみんなもっているから、良い形で俳句が表に出てくればいいなと思うんです。
それに、松山は俳句の事に行政から予算が出ることも多いですよね。そのおかげで、観光客に俳句を作ってもらうガイドツアーなど、インフラはできつつあります。でも、旅先でいきなり俳句を作るというのは、なかなかハードルが高いと思う人も多いのではないでしょうか。道後で観光俳句ツアーをやった時に、企画者の方たちに聞いてみたら「いやぁ、僕たちは才能がないから作れませんよ」なんておっしゃって(笑)。だから、プラッと来た観光客の人たちにもさりげなく俳句を楽しんでほしい。「俳句恋みくじ」のような取り組みを続けていきたいです。
一方で、本当に松山に人を呼び込みたいのであれば、もっとピンポイントで狙えばいいのに、と思います。もっとコアに、俳句好きの方々の聖地らしい旅行プランがあってもいいかな。一般的に俳句をされる方々というのは「結社」とよばれる俳句を作る団体(日本に1000くらいある)に所属しているので、PR先まで明確です。すでに市内を巡るツアーだとか細かなコンテンツは揃っていますし、せっかく松山という土地に大きなリーチがあるんですから、その魅力をより魅力的と思う層に届ける仕組みづくりを、どこかの旅行会社さんとか、旅館さんとできればと思いますね。

Q 今後の目標を教えてください。

やはり俳句の楽しさを知っている身として、俳句の楽しさをレコメンドしたいと思っています。「俳句をやってます」って言うと、だいたい「若いのに珍しいですね」とか「高尚なご趣味で」とか言われちゃうことが多いんですが、俳句ってもっと俗でかっこいいものだと思うんです。小説を読んだりするのと同じように、気軽に「楽しいよね」って同意してくれる人が増えると嬉しいですね。
SAKI KONO WORKS
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株式会社つばき レグレットカフェ俳句スイーツ/2014年春・桜   株式会社つばき 歩音 俳句恋みくじフォーチュンクッキー
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株式会社つばき 歩音 俳句恋みくじ(黒め塩飴)袋   句集「光まみれの蜂」(角川書店 2012年)